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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(オ)1120号 判決 1976年2月26日

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人石原金三、同山岸赳夫、同平野純吉、同小栗厚紀の上告理由第二点、第三点及び第五点について

原審の確定したところによると、(一)上告人は、訴外明産興業株式会社(以下「破産者」という。)に対し犬山館の新築工事を注文し、その工事代金支払のため第一審手形判決目録記載の約束手形七通(以下「本件手形」という。)と同金額の約束手形七通(以下「旧手形」という。)を振り出し、破産者は、旧手形を北陸銀行、岐阜相互銀行及び西日本相互銀行(以下「三銀行」という。)において割り引いたこと、(二)上告人は、旧手形の支払に窮し、三銀行と交渉した結果、上告人から被上告人あてに満期を二か月後とする旧手形と同一金額の約束手形を振り出し、これに被上告人の裏書を受けたうえ旧手形と交換する旨の合意が成立したこと、(三)被上告人は、上告人より「別紙目録記載の約束手形について無担保裏書を受けたる上は、貴管財人に対し一切御迷惑をかけません。右約束手形に関する支払等につき貴破産財団に対し何らかの損害が生じたときは、当社に於て直ちに弁償致します。」と記載した保証書と題する書面(甲第一〇号証)を徴したうえ、本件手形に「支払は担保しない」旨を付記したいわゆる無担保裏書をしたこと、(四)上告人は、右裏書のある本件手形を三銀行に交付し、旧手形の支払延期を認められたこと、(五)上告人は、本件手形の満期にその支払猶予を申し入れたが、三銀行より拒否されたこと、以上の事実が認められるというのである。

右事実関係のもとにおいては、被上告人のした本件手形の裏書は、無担保裏書であるから、振出人である上告人が本件手形を支払うことができない場合に、三銀行が被上告人に対する裏書責任を追求し、破産者の破産財団に属する預金債権と本件手形金債権とを相殺することは許されないというべきである。のみならず、本件手形が旧手形の支払延期のために振り出されたいわゆる書換手形であることは、前記のように原審の確定するところであり、三銀行が上告人より本件手形の交付を受けた際、上告人に旧手形を返還したことを首肯しうる証拠はない。したがつて、三銀行は、右無担保裏書のため本件手形につき被上告人に対し裏書人としての遡求ができないことから、そのような制約のない旧手形を保留したものであり、三銀行が自働債権として破産財団所属の預金債権との相殺に供したのは、本件手形金債権ではなく、旧手形金債権であつたものと推認するのが相当である。

してみると、上告人は、被上告人より本件手形に無担保裏書を受けたが、そのために破産財団に対し被上告人主張の損害を招来させたことにはならないので、上告人が前記保証書の文言を理由に本件手形につき一切の抗弁を提出することなくその支払に応ずべき義務はないものというべきところ、右保証書の文言を根拠に、上告人主張の抗弁につきその当否を判断することなく被上告人の本訴請求を認容した原判決は、無担保裏書に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽ないしは理由不備の違法をおかし、その違法が判決に影響することが明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れず、なお審理をとげさせるため本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

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